ワールドカップで日本代表が勝つために何が必要なのか。孫子の兵法から考えてみた。

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ハリルホジッチ解任!西野ジャパン、いよいよワールドカップへ!…とまあ、ワールドカップ直前になって激動の時を迎え、サポーターや評論家の意見を見ても賛否両論渦巻くサッカー日本代表。

まあ、賛否を問うたところで代わったものは代わったわけで、戻れるわけでもないので今更議論をしてもしょうがない。「ハリルホジッチを解任したことで日本サッカーがどうのこうの」とかずっと引きずっている評論家さんたちは、実にセンスがない。

日本サッカーがどうなるか知らないが、起きたことを批判してもしかたないのである。起こってしまった以上どうするかを考えるべきであり、その点を健全に議論することが本質的に必要な点であり、評論家が果たすべき役割だろう。

といって僕は評論家ではないのだが、戦略好きのひとりとして、監督がハリルホジッチだろうが、ザッケローニだろうが、ジーコだろうが、岡ちゃんだろうがあまり関係ないであろう原則論を、孫子の兵法という虎の威を借りて語ってみたい。

忘れてはいけない基本。兵は詭道なり。

まず考えたいのが、有名な「兵は詭道なり」。戦いは騙し合いだ!…って、そりゃそうだ。だが、ちょっと考えてみると日本代表自体が良い事例を提供していた。少し振り返ろう。

2010年のワールドカップ南アフリカ大会で日本が決勝トーナメントに進出できたのは、狙ったわけではないにせよ、結果的にこれができたからだったのではないだろうか。

この大会に向けては中盤のタレントを生かしたポゼッション重視のサッカーを志向していたものの、直前の試合の結果が悪かったことから方向転換。

フォーメーションを変え、メンバーを変え、守りに守ってカウンターを仕掛けるチームへと変貌した日本代表。

日本代表のフォーメーションや戦術、選手配置とその特徴など、おそらく過去のデータはあまり参考にならず、対戦チームにとってはなんらかの影響を与えたことだろう。

わずかでも迷いや戸惑いを生んだことが、紙一重の勝負の勝敗を決したのかもしれない。

一方で、大会前に好調でタレントが揃っていた2006年、2014年は、「それまで通り」の戦術・サッカーを繰り広げた結果、どうだっただろうか。

試合が始まってから、相手に「オーマイガー!ジャパンは映像で見ていたのと全然チガウジャナイカ!」的なことを言わせれば、それだけで勝機は広がる。

別に直前になってまったく異なるフォーメーション、戦術を取るべきだ、ということではない。ただ、「相手が予想していない1手」をどう打てるか、が重要だということだ。

違和感を感じさせたり、気持ち悪いまま試合を進めさせることができれば、勝つチャンスが大きくなる。「勝つ確率を1%でも上げたい」なら、こういう戦略的な基本は必ず抑えるべきだ。

ちなみにこの有名な「兵は詭道なり」に続く一説には、こんな言葉がある。

其の無備を攻め、其の不意に出ず。

騙して無防備になったところを攻める。あるいは、不意を突く。これが重要だ、ということだ。敵が混乱することで作り出したチャンスを見逃さず、仕留めることが必要なのだ。

――お家芸の決定力不足が出なければ良いが――。

負けない戦いが大前提。善く戦う者は不敗の地に立ち、而して敵の敗を失わざるなり。

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戦上手は、自分が負けないようにしながら、敵にできた隙を見逃さない。これもまた、当たり前のことなのだが、特に弱者が戦う際には自らミスによって自滅していては勝負にならない。

逆に、いわゆる「力の差」、戦力差が大きくても、ミスをせず、耐えて忍んで、わずかな相手のミスやワンチャンスを決めきれば、勝ちは転がってくることがある。有名なところでいえば、桶狭間の戦いがそれに当たるかもしれない。

実は、サッカーの世界において、しかも日本サッカーの歴史において、この点を体現した非常に良い例がある。そう、今回の日本代表を率いる西野監督率いるチームが22年前に起こした「マイアミの奇跡」だ。

奇しくもこの時のフォーメーションは、先日のガーナ戦でテストされた3-4-2-1だったのだから、今回のワールドカップでも同じような「自分が負けないようにしながら、敵にできた隙を見逃さない」戦いを目指しているのかもしれない。――まあ、考え過ぎだろうが。

この試合は、戦前の予想通り、ブラジルが一方的に攻め続ける展開となった。しかし日本のGK川口がこの日は大当たり。さらに何本かのシュートがポストに嫌われるなど、運もブラジルに味方しない。

スコアが動かないまま試合は進み、時間とともにブラジルには焦りと疲労の色が見え始める。

そして、残り15分に差し掛かろうという頃。日本の一本のパスがゴール前に通る。刹那、DFアウダイールとGKジーダが交錯。ゴールに向かって転がるボールを、日本のMF伊東が蹴り込む。

――決まった。

ブラジルはその後猛攻を仕掛けるが、日本はDFを投入して守り切る態勢に入る。そして、試合終了のホイッスル。

世界に衝撃を与えたジャイアントキリング。その真相はまさに、「不敗の地に立ち、而して敵の敗を失わざる」――自らの戦力を鑑みた負けない戦いを展開し、相手の一瞬の隙をつく――戦いだったといえるだろう。

まず負けないこと。そのための戦い方を構築しその戦術を遂行する――やりきる――ことが重要であり、それができれば、たとえ戦力的に不利でも、勝利を掴むことは可能なのだ。

問題なのは、このときのチームに対する日本サッカー協会の技術委員会と称する組織の評価である。曰く、「守備的なサッカーで将来につながらない」と。

日本サッカーの進歩において、こうした戦略や戦術の基本を弁えない「こうあるべき論」は大きな障害ではないかと思う。

「守備的なサッカー」をなぜ選択したのか、そこにおける戦略的な背景はなにか。彼我の戦力差はどれくらいあったのか。それに対して適切な戦術的選択であったのか。その戦術的選択を本番においてどれくらい実行できたのか。

前述の点はあくまで一部だが、これらを踏まえたうえで、「将来につなげるべきポイント」や「将来に向けて改善すべきポイント」を整理することができなければ、評価も振り返りも意味がないのだ。

このあたりは日本サッカー協会然り、マスコミ然り、サポーター然り。周囲のレベルが上がらなければ解決しない問題でもあるだろう。

多くの戦いというのは、将軍や兵士、部隊そのものの力量以外の要因により、勝敗が決するものなのだ。

関ヶ原の戦いで戦力的には優勢だった西軍が呆気なく崩壊したのは、石田三成と徳川家康の人望の差だった、と捉えることもあながち的外れではないだろう。残酷ではあるが、歴史が語る事実なのだから、これもまた避けて通ることはできない。

――敵は相手チームだけではない。敵は、味方のふりをする。――

「主導権」を正しく定義し、握る。善く戦う者は、人を致して人に致されず。

主導権を握ることの重要性が語られているこの一節。

サッカーにおいて主導権を握る、となると、――少なくとも日本代表に関しての話題においては――どうしても「ボールを保持して攻撃的に」という話が独り歩きしがちではないだろうか。

だが、「主導権」=「ポゼッション率」ではないはずだ。

たとえば、強豪チーム同士の対戦では、こんな実況を聞くことはないだろうか。「いやー、これはうまくボールを持たせてますねえ」。一見すればボールを圧倒的に保持しているチームが主導権を握っているように見えるのだが、実は逆、というケースだ。

主導権には2つの要素が絡む。1つは、「自分たちのペース」で進められていることであり、もう1つは「人を致す」――いわば、翻弄する――ことだ。
ボールを保持すれば「自分たちのペース」で進められるかもしれない。だが、最初から相手にそれが読まれていれば、「相手を翻弄する」には至らない。

逆にボール保持を捨て、カウンター狙いになれば、「相手を翻弄する」ことはできるかもしれない。だが、「自分たちのペース」ではない…。

このジレンマが、日本代表に重くのしかかっているように思える。アジア予選のUAE戦などは好例だ。

ホームで敗れた初戦は「自分たちのペース」で進み、ポゼッション率67%を記録したが1-2で敗れている。一方、アウェイでの一戦は相手にボールを持たせることで「相手を翻弄」できたのか、ポゼッション率は42%まで落ちたが、2-0で勝利した。

結果から見れば、「自分たちのペース」を捨てても、「相手を翻弄」することが重要そうに見えるし、実際にハリルホジッチ監督はそう判断したのかもしれない。

…のだが、そのハリルホジッチ監督が解任されたことからも、相当難しいものの、この「自分たちのペース」と「相手を翻弄する」ことの両立が必要なのではないかと考える次第だ。

そうすると、「主導権」の適切な定義こそが必要になる。これは試合ごと、相手によって変わるものでもあるし、その意識の共有こそが重要になるだろう。

この試合、この相手に対して、適切な「自分たちのペース」はどのようなものなのか。「自分たちのペース」をつくった上で、相手をどう翻弄して隙を見い出し、不意を突くのか。勝つためにはその画をできるだけ明瞭に描くことが必要になるだろう。

そういえば孫子の兵法の有名な一節があった。

戦いは正を以って合い、奇を以って勝つ。

正攻法と奇策をいかに組み合わせるかが勝つためには重要であり、どちらかだけでは勝つには不十分だ。

日本代表でいえば、「ボール保持して自分たちのペースをつくるか、ボール保持は捨てて相手の弱点を突くか」が二択的に語られる時点で、「正攻法か奇策か」と言っているのと同じことで、それでは勝つには不十分なのだ。

勝つためには「自分たちのペースをつくる」「相手の弱点を突く(翻弄する)」ということはどちらも両立させなければならない。そのためにどんな戦い方が必要なのかを考え、築き上げ、やりきること。そうして主導権を握っていくこと。

それこそが、めざすべき「自分たちのサッカー」になっていくのではないだろうか。

おわりに

本稿について、「現実的ではない」とか「サッカーを知らないから言えることだ」とか「お前の認識がそもそも間違ってるよ」と感じる方もいるかもしれないし、実際そうかもしれない。

今回書いた内容はあくまで、孫子の兵法の一部を引っ張り出して当てはめると、勝つためにこういうことが必要なのではないかと考えてみた、という個人的な意見の域を出ないものなので、ご笑覧いただければ幸いである。

最後になったが、サッカー日本代表のロシアワールドカップにおける健闘を心より祈っている。

カトウマモル

セキュリティエンジニア、社内SE、社内システム&マーケティング・広報担当マネージャー、コンテンツマーケティングのコンサルタントなどを経て、現在は奄美大島でリモート幽霊社員生活を満喫中。

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