マーケティングの世界において、コンテンツマーケティングという手法が注目されるようになって久しい。
しかし、いざ始めようとすると、意外とその正体や本質を理解することが難しかったり、最初の一歩を踏み出せない、というケースもよくある。そこでこの記事では、「始める前に知っておくべき」という観点から5つのポイントを取り上げ、その答えを探してみたいと思う。
まずはこの5つの真実を知ろう。あたりまえのことほど見落としやすい。
さて、あなたは世の中の”真実”をどれほど知っているだろうか。これから語るコンテンツマーケティングの真実には、何も特別なことは含まれない。世の中の”真実”とはたいてい、そういうものだ。特別なことではなく、あたりまえのことこそが、”真実”だ。
このことに同意してもらえる人にしか、この後の内容は意味を持たないだろう。しかし、なぜあえてあたりまえのことを”真実”などと呼ぶのか、そのことを先に説明しておきたい。
これから書くことはしごくあたりまえのことなのだが、マーケティングの現場、ビジネスの世界ではその「あたりまえのことがあたりまえになされない」ことの方が多い。そうして、人は真実から目を逸らし、気づいた時には手遅れになっていたり、大きな失敗が起こっていたりする。悲劇というのはそうして生まれるのだ。
だからこそ、あたりまえのことをきちんと認識し、そこから始めることが必要だと僕は考える。さて、少し前置きが長くなってしまった。これから取り上げたいのは次の5つの点だ。
コンテンツマーケティングを始める前に知っておきたい5つの真実:
- コンテンツマーケティングは異色の存在
- 時が生み出す苦悩がある
- 周囲の理解はだいたい得られない
- 社内でふつうのことも、外から見るとおもしろい
- 効果を数字だけで見てはいけない
コンテンツマーケティングが異色の存在といえる理由
異色な存在とは何だろうか?それは、世の中においてふつうとされている存在と異なる色を持っているということだ。といえば、書いて字のごとく、あたりまえじゃないか、と言われるかもしれない。
だが、その事実と向き合うことは重要だ。コンテンツマーケティングとはマーケティング界においては異色の存在だ。特に、CVや売上を可視化でき、そこに至る経路を可視化できることがメリットとなっているデジタルマーケティングの世界においてはそうだ。
コンテンツマーケティングが得意とするのは、明日の売上ではなく、来年の――いや、もしかするともっと将来の売上への貢献だ。コンテンツマーケティングは、これまでのマーケティングにありがちな、「施策によって売る」アプローチではなく、「いつか売れるための種を蒔く」手法なのだ。
そしてこのことは、「売上至上主義」ともなりがちなビジネスの世界において売上の拡大をミッションとするマーケティング担当者にジレンマを生む。「その施策が売上にどう貢献するのか」「で、いくら売上上げてるの?」こうしたマーケターにかかる圧力こそが、コンテンツマーケティングにとっての障害となる。
誤解しないでほしい。コンテンツマーケティングは売上拡大に貢献しない施策なのではないのだ。その貢献方法が異色であり、計測に工夫が必要となり、しかるべきステップを踏むことが求められるというだけで。
だが、この点を理解していない人も、また多い。こうしてコンテンツマーケティングは――事実として――異色の存在として扱われがちなのだ。そして異色の存在を推進することは、難しい。コンテンツマーケティングを始める前にまず知っておきたいのは、このことだ。
中長期の施策だからこそ、時が苦悩を生み出す
コンテンツマーケティングの成功を描くには、その時間軸は中長期とすることが重要だ。継続することによりコンテンツが資産として蓄積される。蓄積されたコンテンツは徐々に効果を発揮し、継続した活動が成果につながっていく。
だが、現在のビジネスの世界において、この中長期の施策ということは不利に働く。ビジネスの状況は刻々と変わる。数年先を見据えた施策が受け入れられる土壌は、どの企業にもあるものではない。
また、定期的に人事異動などがあればなおさらだ。マーケティング担当は本来、専門職としてそうそう異動などしないほうが理想だが、多くの日本企業はそのような人事を是としていない。
担当者が変われば、施策も変わる。あるいは担当者が変わらず、中長期を見据えていても理解のない上司が前任者を否定し、自らが手柄を立てようと意気込むことが施策の変化を生むかもしれない。それもまたよくあることだ。
別の観点で言えば、時間とともに、そもそも目的が何であったのかが不透明になったり、成果の定義があいまいになったりすることもある。こうして、長きに渡る旅の途中で、「なぜやっているのか」「いまなにをすればいいのか」がわからなくなってしまうのだ。
このように、時が苦悩を生み出し、試練を与えるということは、これまでにも証明されてきていることだ。もちろん、コンテンツマーケティングを始める前から先々の話を心配しすぎる必要はないが、覚悟はしておこう。
周囲の理解が得られない中、どう戦うか
ここまで考えてきたように、異色な存在である上に、時間がかかるためさまざまな試練を乗り越えなければならないコンテンツマーケティング。で、あるがゆえに、と言っても良いだろう。周囲の理解は得られないのがあたりまえだ。このことも、始める前に知っておくべきことだろう。
悩み深いのは、周囲の理解を得なければコンテンツマーケティングが成功に至ることは非常に難しくなるということだ。つまり、コンテンツマーケティングを成功させようと思えば、周囲の理解を得なければならないが、周囲の理解は得られないのがあたりまえからスタートしなければならないのだ。
ここでは、情熱と信念が試される。必ず成功させるという情熱と、コンテンツマーケティングこそが新たな世界を切り拓くという信念を武器とするべきだ。その武器で戦うことこそが――コンテンツと同様、時間はかかるかもしれないが――成功を勝ち取るために必要なことだ。逃げても、何も生まれないのだから。
社内でふつうのことを、世間の視点で見直すことの重要性
あなたの会社が何をしている会社でも、その業界・業種や企業ならではのなんらかの特徴や文化があるはずだ。閉ざされた世界の中での常識、長年やってきた当然は、世間から見ると特別であったり、見たことのない世界であったりするのだ。
つまり、こういうことだ。「うちにはコンテンツにするような話はなにもない…」などと考える必要はない。あなたの会社にはすでにストーリーがあり、発信するべき情報が眠っているはずだ。それをいかに探り当て、掘り出し、呼び起こすのかが重要だ。
コンテンツマーケティングを始めようとする前に、まずはどのようなストーリーがあるのか、どのように伝えることが必要なのか、もう一度世間視点で見直してみよう。そうすることで、より魅力的で価値のあるコンテンツを生み出せるようになるはずだ。
効果は見えないところにもある、なんでも数字で測れると驕らない
マーケティングの世界では数字が重要視される。これはあたりまえのことだ。売上や利益の向上がマーケターには求められる。これも、あたりまえのことだ。
では、これはどうだろうか。企業や企業活動を取り巻くすべてのことを、数字だけでは説明できない。たとえば従業員がどれだけ企業のビジョンに共感しているか、消費者がどれほどファンとなっているか、社会においてどのようなイメージをどれほど持たれているか、等、これらを数値化することは非常に困難だ。
各種アンケート調査である程度の測定や数値化は可能だが、それでも十分とはいえない。人間は自分のことを完全に把握していないのだ。脳はまだ完全に解明されておらず、なぜこれを買ったのか、これを好きなのか、人間は完璧に答えられない――答えられるが、それは実は真実ではない――のが現実だ。
さて、コンテンツマーケティングとはまさにこの、人間が完璧に答えられない原因である脳の95%を占めるという潜在意識をはじめとする、数字だけでは説明がつかない世界への冒険であり、数字や目に見えるもの、マーケターが把握している世界だけでは完結しない効果が生まれる可能性を秘めた手法なのだ。
これまでのマーケティングの常識とされるものや、売上や利益といった数字へのコミットのみに縛られ、数字や目に見える効果のみに囚われることは、自分たちの持ち得る可能性や選択肢を自ら捨てるようなものだ。
コンテンツマーケティングを始める前に、この点はぜひ肝に銘じておいてほしい。
コンテンツマーケティングの「あたりまえ」をおさえることから始めよう
これはあくまで僕の考えなので、必ず正解だというわけではないだろうし、異論がある人もいるだろう。そのこと自体は重要なことではない。だが、こうしたコンテンツマーケティングの特色ともいえるものを事前に考えておくことが重要なのはまちがいないだろう。
コンテンツマーケティングの特色や始める前に考えておくべきポイントを疎かにした結果、「あたりまえのことがあたりまえになされない」状況に陥り、コンテンツマーケティングを無理に数字につなげようとしたり、不適切な基準で短絡的な判断を下して失敗するケースはいくらでもある。
何事も準備が肝心だ。コンテンツマーケティングの「あたりまえ」とは何かを理解したなら、「あたりまえのことをあたりまえに進められるよう」準備を進めよう。そこからあなたのコンテンツマーケティングの物語は始まるのだ。