マーケティングの基本とは?マーケターが考える、本当は基本なんてない説

マーケティングの基本とは(アイキャッチ)

大したスキルも名もないマーケターのはしくれであるこの僕でも、こんな相談を受けることがある。

「カトウさん、マーケティング勉強したいんです」

うん。すればいい。どうぞ?がんばれ。別にあなたの願いや思いを否定もしないし、それを宣言されたとこで僕になにか関係するわけでもない。勉強したいなら、すればいい。

え?そういうことじゃなくて??なに?

「マーケティングの基本を勉強したいんです。どうすればいいですか?」

ほう。マーケティングの基本ねえ。そんなの簡単だよ。うん。任せなさい、この僕に聞いたからには安心だ。それはね、キミぃ。あれだよ、あれ。うんそうそう。ね。ほら、あのあれだよ。

…え?わかんない??いや、あれだよ。だから、あ・れ。

マーケティングの基本?あるいはそれは邪道かもしれない。

あれと言われれば、マーケターなら誰もが同じことを思い浮かべる。のであれば、この話は終われる。僕もテキストを書かなくてすむし、あなたもこれ以上あれだこれだという長話に付き合わなくてすむ。

ああ、世界は今日もすばらしい。

――だが、残念ながら世の中というのはそううまくはいかない。思い通りにいかないのが、世の中であり人生だ。おそらく「マーケティングの基本とは?」と問われたマーケターたちは、多種多様な答えを出すだろう。ときには正反対のことを言う人たちに出くわすかもしれない。
しかしこれは特に驚くようなことではない。なぜなら、世の中の多くのマーケターは、異なる前提、異なる条件のもとでマーケティングに携わるからだ。当然、その経験によって、”基本”といわれて思い浮かべるものは変わるだろう。

マーケティングの基本-2

アナログとデジタル

イベントやセミナー、紙媒体などアナログなマーケティングに携わってきた人と、Webを中心とするデジタル領域のマーケティングに携わってきた人では、”基本”が異なる。考えてほしい、イベントやセミナーの基本はSEOやUIにはならないのではないだろうか?

マスとWeb

マスメディアとWebでもやはりアプローチは異なる。マスメディアは「打てば響く」前提で施策が展開できるが、Web施策は「どう届けるか」が課題となるのが常だ。あるいはそれは、「広告を出して効果がある」前提にできるか、「広告の効果を計測できる」前提であるかの違いでもある。したがって、”基本”も異なってくるのは当然だ。

BtoBとBtoC

顧客が異なればマーケティングも異なる。これは常識的に理解できることではないだろうか。特に相手が「企業」なのか「消費者」なのかは、マーケティングの戦略・戦術に大きな違いをもたらす。したがって、このいずれでマーケターとしての道を歩み始めるかは、その後の考え方や選択に大きなちがいを生み出す。

有形の商品と無形のサービス

顧客と同じく、売るものが異なればマーケティングは異なる。これもまた、マーケターであるかないかに関わりなく、理解しやすい話ではないだろうか。たとえば、有形の商品はビジュアルやイメージが重要になるし、無形のサービスは得られるメリットや成果イメージが必要になるだろう。もちろん、”基本”とされるものは異なるだろう。

営業企画と商品企画

「顧客」軸でマーケティングを考えるか、「製品・サービス」軸でマーケティングを考えるか。顧客第一主義、顧客中心主義の時代などと言われているが、立場が変われば見方も基本も変わる。これもまた現実だ。

これらは一例に過ぎない。自分が取り組んだ施策、環境、商材、立場によって、そのどこからキャリアをスタートさせているかによって、基本と思うものは変わるのだ。

たとえば、食べ物の基本はどうだろう。

日本人に訊けば「白米」と答える人が多いだろう。だが、他の国ではそれが、パンかもしれないしパスタかもしれないし、ナンかもしれない。でもそれは当然のことだ。

まわりの環境や、条件によって、”基本”というものは変わる。”基本”自体がそういう存在なのだろう。だから、「私にとっての基本」は「あなたにとっては邪道」かもしれないのだ。

…ああ、なんとむずかしいことか…!

マーケティングとは。その定義すら…

世の不条理さを嘆いたところで、現実は変わらない。もう一度、足元を見つめ直してみよう。そもそも、マーケティングとはなにか。その定義にヒントがあるかもしれない。

こういう時、我々にはGoogleという強い味方がいる。そう、あなたも聞いたことがあるだろう、「早くググれよ」と。さて……

商品が大量かつ効率的に売れるように、市場調査・製造・輸送・保管・販売・宣伝などの全過程にわたって行う企業活動の総称。市場活動。販売戦略。(出典:Google

企業などの組織が行うあらゆる活動のうち、「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその価値を効果的に得られるようにする」ための概念である。また顧客のニーズを解明し、顧客価値を生み出すための経営哲学、戦略、仕組み、プロセスを指す。(出典:Wikipedia

ん??なにか同じものに見えない気がするのは、気のせいだろうか。

Wikipediaの「マーケティング」の項をさらに見ていくと、

マーケティングの権威と言われているコトラーは「マーケティングとは、製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス」と定義し、経営学の権威であるドラッカーは「セリング(単純なる販売活動)をなくすことである」と定義しているのだという。

そうだ、これこそが問題なのだ。つまるところ、「マーケティング」という言葉の定義自体にバリエーションがあるのだから、「マーケティングの基本」というものを定めようとすること自体に無理がある。きっとそういうことだろう。

マーケティングの基本にどこまでの価値があるというのか

そうすると、マーケティングの基本から勉強する、という事自体にどれくらいの価値があるのだろうか。このあたり、ひょっとすると我々は―日本人だからなのか―律儀に”基本”を追いすぎ、”基本”から学ぼうとしすぎなのかもしれない。

こう考えると、あえて言うならば、「簡単にはわからない」ことを知ることが基本なのかもしれない。つまり、マーケティングとはその定義からして幅広いものであり、学ぶにせよ実践するにせよ、簡単なものではないということを知り、覚悟を決めることからすべてが始まるのではないだろうか。

だが悲観することはない。マーケターと呼ばれる人は多くいるのだ。しかも、成功している人も多い(もちろん、失敗している人はもっと多いのだが)。簡単ではないということは不可能であるとか、選ばれし者のみのものだということを指すわけではない。

ただ、必要なものは少なくなく、道のりは険しいかもしれない。それでも一歩を踏み出す覚悟があるなら、この次に語ることをしっかりと読んで欲しい。きっとあなたに役立つヒントがあるはずだ。

目的と手段を見分け、戦略と戦術のちがいを理解する

マーケティングに限らない話になるが、それでもマーケティングに当てはまる”基本”に関する話を最後に少しだけしておこう。そうでなければ、「基本を知りたかったのに、何のヒントもない…」とあなたに思われる、読み手を後悔させるだけのコンテンツとしてこの記事は終わってしまうからだ。

目的と手段

ひとつ、重要なのは、「目的と手段を混同しない」ということだ。あたりまえのことだと思っているかもしれないが、これができていない担当者、企業、広告代理店は無数にあるし、その失敗に気づいていないケースも数多あふれているのが現実だ。

たとえば「SEO」は手段だ。Web上で情報の到達性を高めたり、認知度を高めるためには非常に有効であるし、今のWebマーケティングにおいて重要であることにまちがいはない。ただし――しつこいようだが――これは手段なのだ。

だから、「SEOを実施する目的」がその背景として明確でなければならない。売上の確保、見込み客の獲得、認知の拡大…どのようなものにせよ、「SEOが成功したら成し遂げられること」が明確でなければ、マーケティングとして成立しない。

しかし実際には「SEOを目的としたWebサイトの構築」「SEOのためのコンテンツマーケティング」などということを嘯く自称マーケターやマーケティング企業が蔓延っているのが現実だ。惑わされてはいけない。そこで起こっているのは、”手段の目的化”でしかないのだ。

戦略と戦術

同様に、「戦略と戦術の重要性を正しく理解する」ことも重要だ。どんなに優れた戦術でも、戦略が間違っていればその意味は失われてしまう。適切な戦略の上でこそ、戦術は威力を発揮し、成果につながるのだ。

この考え方に沿うと「でたらめな戦略で優秀な戦術」が展開されることは最たる悲劇だということが分かるはずだ。実際の戦争に例えてみるとこれはわかりやすくなる。

戦略がでたらめで、本来守らなければならないのに、攻めることになっているとする。戦術は優秀だから、どんどん勝ち進んでいく。

が、本来は守らなければならないのだ。言い換えれば攻められているのだ。戦術が優秀で、どんどん勝ち進んでいけばいくほど、守らなければならない場所から軍は遠ざかっていく。そして――敵が迫ってきた時、後悔するのだが、そのときにはもう遅く、攻めていた軍は間に合わないのだ。

一方、戦略がでたらめでも、戦術も優秀ではなく、苦戦を続け対して守るべき場所から離れていなければ、どうだろうか。褒められたことではないが、しかし敵が迫ってきた時、その軍は守るべき場所に戻ってくることができる。

つまり、戦略が間違っていて戦術が優秀だと、間違った方向にひたすら進んでしまい、気づいた時には引き返せない、ということが起こりかねないということだ。こういうことはマーケティングの世界でもよく起こる。

そう、目的と手段はきちんと区別しなければならないし、戦略や戦術はその順序や重要性を正しく理解して、適切に設定しなければならない。あえて言うなら、これがマーケティングの”基本”としてあげられる汎用的な話ではなかろうか。とはいえこれは、マーケティングに限らず、ビジネス全般に当てはまる話かもしれないが。

基本に囚われる必要はない。とにかく動き出そう

マーケティングの基本-3

長々と話してきたが、最初の話に戻ろう。

「マーケティングの基本を勉強したいんです。どうすればいいですか?」

目的と手段のちがい、戦略と戦術の正しい理解など、おさえておいた方が良いポイントはあるとはいえ、不確実な”基本”という概念に囚われる必要はない。ただただ、足下を見つめ、前に向かって歩き出せば良いのだ。

つまり、真実はこうだ。あなたがこれから何を学び、何を考えるか。それによって、あなたにとっての”基本”が決まる、ただそれだけのことだ。

”基本”がなにかを探すことに時間や労力を使うより、とにかく動き出す方が良い。さあ、始めよう。

カトウマモル

セキュリティエンジニア、社内SE、社内システム&マーケティング・広報担当マネージャー、コンテンツマーケティングのコンサルタントなどを経て、現在は奄美大島でリモート幽霊社員生活を満喫中。

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