毎年、流行に(ある程度)敏感な人々は「今年のトレンドは…」という話題で盛り上がっている。
たとえばテレビなどをぼーっと見ていても、スタイリストなどのコーディネートで冴えない一般人が変身するような企画があったり、芸能人を特定のテーマでコーディネートするコーナーがあったりする。
そこで大体の場合に出てくるのが「今年のトレンドとしては、こういう色なので~」とか、「今年はこういう形の服がトレンドなので~」といったコメントだ。
そう、昨年と今年のトレンドは、違うのだ。
そんなことは、誰でも知っている。分かっている。はず、なのだ。
なのに今日も会議室では、「前年成功したキャンペーンを今年も…」なんて不毛な議論がなされている。ここに矛盾を感じることができるかどうかがマーケティングを知る上で重要な要素だ、という話を今回はしようと思う。
ファッションのトレンドが違うことで、何が起こるか
昨年と今年のトレンドが違うことで、何が起こるか。
もっとも分かりやすいところでは、「昨年のトレンドとして売れた服を今年仕入れても売れない」ということが起こるだろう。
他には「一番売れる商品の価格が違う」「一番売れる商品の販売数が違う」ということも当然考えられる。
さらにいえば「一番売れるブランドが変わる」「一緒に売れる小物が変わる」といった変化も予想できる。
だから結局のところ「昨年とは何もかも変わる」という前提で臨まなければ、今年のトレンドに取り残されてしまう。そして、トレンドに取り残されたショップを訪れた客が買いたいものがなかったり、結果としてそのお店の印象が悪くなったり、という悪循環すら起こり得る。
そう、「昨年こうだった」はまったく当てにならないし、してはいけないのだ。
「昨年売れたから、今年も」のナンセンスさ
たとえば「昨年このコートすごい売れたから、今年もこれをガンガン仕入れよう」なんていう店長がいたら、どうだろうか。たんに昨年がどうだったから、昨年と同じにしておけばいい。なんて思考停止もいいところだ。
昨年売れた服は今年は流行遅れかもしれず、なんだったらセール品のカゴに放り込まれて半額にしないと売れないかもしれない。
だから「今年の状況」に合わせ、「今年の客が何を望むか」に基づいて、何を仕入れるか考えなくてはならない。このシーズン売れそうなものは何か。それと一緒に売れる小物やアクセサリーは何か。その予想のもとに今年は今年の仕入れを行い、陳列し、接客することが必要なのはいうまでもない。
だが「昨年このコートすごい売れたから、今年もこれをガンガン仕入れよう」というだけでなく、そこに「今年も同じトレンドだから」とか「トレンドに左右されない定番品だから」という枕詞がつけば、話は変わってくる。
それは「今年の状況」「今年客が望むもの」が昨年と似ているという予想を根拠にしたプランだ。したがってその軸は「昨年」ではなく「今年」にあり、昨年と同じように仕入れるという点においては同じであるとしても、その途中にある思考、そして恐らくは売上などの結果も異なるものになることだろう。
過去の成功が次の成功を約束するものではない
つまり、こういうことだ。「昨年売れた商品」は「今年売れる商品」に必ずしもならず、「過去の成功」は「次の成功」を約束するものではない。
だから、会議室で「昨年成功したから今年も同じキャンペーンを…」なんていう人ははっきり言ってマーケティングに携わらない方が良い。もちろん、先に述べたように、「昨年成功したキャンペーンが今年も成功するであろう」確からしい根拠を持っているのであれば話は別だ。
ただ、忘れてはいけないのは、ファッションのトレンドに限らず、今の世の中は変化が激しいということだ。
1年あれば、社会も、人も、業界も、競合も、技術も、何もかも状況は変わり得るし、変わっている。
昨年ブームだったギャグは、今年忘れ去られているかもしれない。
昨年ほとんどTVに出ていなかった芸能人が、今年TVで見ない日はないほどの人気を得ているかもしれない。
昨年はなかったお店に、今年は行列ができているかもしれない。
昨年はなかった場所(ビル)が流行の発信源になっているかもしれない。
たとえば、2019年の動きを見るだけでも、どれだけの変化があっただろうか。
元号が平成から令和に変わった。消費税が上がり、軽減税率が導入された。タピオカ専門店の数が変わっているのは間違いない。TVに当たり前のように出ていた一部の芸能人が闇営業問題で謹慎しTVから消えている。
下半期に顕著に変化を生んだのはラグビーの例かもしれない。ドラマ「ノーサイドゲーム」そしてワールドカップ日本開催と日本代表のティア1国連破してのベスト8入りの大健闘で一気に盛り上がり、ワールドカップ閉幕後も日本代表選手がさまざまなTV番組に登場している。
さて、昨年ラグビーに注目していた人がどれくらいいただろう。ラグビー日本代表選手のうち、TV番組に登場した人が何人いただろう。
もちろん、これらの変化は数多く起きている変化の一部に過ぎない。もっと身近なところ、小さなところでも多くの変化が起きていることは、あなた自身がよく知っているはずだ。
マーケティングに失敗したければ、変化に対応しなければいい
こんな話を書き綴っていて、思い出した曲がある。日本のモンスターバンド、Mr.Childrenがその歴史において最も多く売り上げたシングル「Tomorrow never knows」だ。
その歌い出しは、こんな言葉で始まっている。
とどまる事を知らない 時間の中で
いくつもの移りゆく街並を 眺めていた作詞:桜井和寿
そう、時間はとどまらないし、その中でいくつもの変化を経て街並みは移り変わっていっている。そんなことは、誰もが理解し共感できる世の理だ。
だからマーケティングに失敗するのは簡単だ。
思考停止して、以前と同じことをやっていればいい。変化に対応しなければ、そのうち失敗するのだから。
逆にいえば、成功したければ、変化に対応し続けなければならない。思考停止して過去の成功を辿ろうとするのではなく、今、そしてこれからを見据えて最も成功確率が高いと思われる手を打ち、改善を続けることが必要だ。
当たり前のことなのだが、それができていない姿があちらこちらで見られるのが現実でもある。だから今日もどこかの会議室では「前年成功したキャンペーンを今年も…」なんて不毛な議論がなされているのだ。
そして、その不毛な議論や失敗への道を突き進もうとするナンセンスな誰かと戦うこともまた、時に必要となる。
残念きわまりない事実ではあるのだが、しかしそれもまた、マーケティングの一部といえるのかもしれない。