デジタルマーケティングの発展に伴い、そのツールやソリューションも飛躍的に増加し、選択肢は増加している。マーケティングについて学び始めたり、業務で携わり始めたりした時に面食らうのも無理のないことだ。
それも、ツールの種類を考えるだけでも、さまざまなアルファベットやカタカナが入り乱れるため、どれがどれで何が何なのか、わかりづらいことこのうえない――もっとも、慣れればどうということはないのだが――。
私自身とて、時にアルファベットの羅列を聞いて、「あれ?なんだったっけ?」となることも多い。そのためできるだけわかりやすく、基本的な分類についての情報をまとめようと考えたのがこの記事だ。
とにかく、できるだけ分かりやすく解説できるよう、ありのままに、あるがままの心でまとめてみたので、参考になれば幸いだ。
1.MA(Marketing Automation)
MAとはマーケティングオートメーション。その名のとおり、「マーケティング活動を自動化(オートメーション化)」するツールだ。
これが恐ろしいことを意味することに、あなたは気づいただろうか。つまり、ろくでもないマーケティングをしているとしたら、それがそのまま自動化され、効率化され、「ろくでもないマーケティングが徹底的に実行される」ことになるのだ。
MAが最も得意とするのは、「見込み客(リード)へのアプローチ」である。見込み客を見つけ(リードジェネレーション)、育て(リードナーチャリング)、ホットリードになったらそこからセールスが始まる、というのが基本的な流れだ。
だが、MAを導入したから見込み客へ素晴らしいアプローチができるようになるわけではない。MAが行えるのは自動化であり、効率化だ。もともと素晴らしいアプローチをしていれば、より効率的に成果をあげる。だが、そうでないとしたら――見込み客が望まないアプローチを自動化し効率化し延々と図ることになる。
そのことが見込み客にどんな意味を持つかは想像に難くない。せっかく持った興味も失せるだろうし、ひょっとすると「この会社は鬱陶しいから、ここからだけは絶対買わない」と決断させることになるかもしれない。
そう、MAは企業のマーケティング活動を劇的に効率化するのだ。――正しく使えば。
大切なことなのでもう一度だけ言っておきたい。MAはすでにできていることを自動化するが、「できていないことをできるようにする」魔法のツールではない。拙速に導入を進めるよりは、きちんとマーケティングの全体設計を進めることのほうが重要な場合がほとんどだろう。
2.CRM(Customer Relationship Management)
CRMは顧客との関係を管理することに重きを置いたツールだ。MAに比べれば、「すでに顧客となっている」ステータスの情報に対してアプローチしていくものがCRMとして定義される。
CRMを有効に活用できれば、顧客との関係をより上手に管理し、適切なタイミングで、顧客のニーズに合わせたアプローチができる。これまで対応できていなかった顧客の新たなニーズへの対応や、購入してくれたのに放置してしまっていたリピートやアップセルを促すアクションも可能になるかもしれない。
だが、これもツールだ。MAと同じく、ろくでもない顧客へのアプローチをしているとしたら、そのろくでもないアプローチを取ったという結果だけが積み上がり、クレーム情報ばかりが貯まっていくことだろう。
こうしてCRMにより、顧客対応が下手であること、クレームが多いこと、クレーム対応がろくでもないことが分かり、ほとんど誰もリピートしてくれないというデータが残ったとして――そこから、どうアプローチすればいいというのだろうか?
ツールに踊らされてはいけない。まずは顧客に対して、何がしたいのか。どんな関係性を築き、どんなアプローチを取りたいのか。それを定めることから始めよう。釘を打ちたいということが決まっていないのに、金槌を買っても意味がないのだ。
3.SFA(Sales Force Automation)
日本語で言うならば営業支援ツール、というのが近いだろうか。SFAは位置的にはMAとCRMの間をイメージすると分かりやすいだろう。MAでマーケティング活動を強化し、ホットリードとなった見込み客に対する営業活動が始まる。その営業を支えるのがSFAだ。そして、受注し顧客となったらCRMにおいて新たなアプローチが始まる。
もっとも、最近は各ツールとも高度化しており、明確な境界を見出すことは難しい。だが、
SFAは営業活動の履歴を残しノウハウ化したり、チームとしての営業の効率を高めるためには最適なツールだ。
しかし残念ながらこれもまた、ツールに過ぎない。営業を効率化するためには、営業が使いこなせなければ意味がない。営業が使わないSFAには何もデータが残らないし、中途半端に雑な入力をされていると、必要な情報が記載されおらず、営業の現状は正しく把握できない。
だが、営業に携わる人間は多忙だ。システムの相手をしている暇はないとか、こんな分かりにくい画面で入力できないとか、なんだかんだと言い訳をしてSFAの魔の手から逃れようとする営業マンが多いのも、また真実だ。
しかも大抵の場合、SFAからのアウトプットは受注や売上の見込みや営業の進捗を可視化するものになる。したがって、営業が正しくデータを入力していなければ、課・部・あるいは会社の数字やそのヨミがズレてしまうことになる。最悪の場合、経営そのものが危機を迎えかねない。
SFAを導入したいなら、まずは入力することになる人――大抵は営業マン――にゴマをするところから始めよう。そのために必要であれば食事を奢ったり、差し入れをすることもいとわないように。お金が心配なら、領収書を経費で申請すれば大丈夫だろう。
まあ、そこまでする必要があるかは会社にもよるだろうから、一旦置いておこう。いずれにせよ、実際の営業現場を担当する人々と良好な関係を築き、現実の営業フローに則った設計とシステムが実現できるかが、SFA導入のポイントになるだろう。
4.DMP(Data Management Platform)
つづいてはWebの世界のツールを取り上げよう。インターネット上のデータや自社データを管理しマーケティングに活用するのがDMPだ。
DMPはオープンDMPとプライベートDMPと呼ばれる2種類に大別される。これは名前から大体察しがつく通りで、一般的なWeb上のデータはオープンDMP、自社マーケティングデータも含める場合にはプライベートDMPというのが大枠だ。
いわゆるデモグラフィックデータと呼ばれるような属性情報や、興味関心、購買行動などのユーザーデータに基づき、さまざまなマーケティング施策を展開する――ユーザーを何らかの軸で分類し、それぞれに対してアクションし、そのアクションの結果を分析し改善し、マーケティングの精度を向上させていく――ことができるのだ。
だが裏を返せばそれは、ユーザーデータを分類するセンスが絶望的だったり、それぞれのユーザー層に対するアクションプランがなかったり、誰も振り向かないどころかネガティブなイメージしか持たれないようなアクションを取っているのに改善をしなかったりすると、DMPを導入しても無用の長物、コストだけがかかったという結果が残るということを意味する。
そんなマーケティング部門やマーケターはいないだろうと、あなたは思うだろうか?だが現実として、多くのマーケティング部門やマーケターには、DMPを使いこなす力がないように思える。優れたアクションプランの策定や適切な分析改善の実行には、その背後に優れた戦略と実行するためのスキルやパワーが必要だ。
理想的であるが、現実的には使いこなせないツール。それがDMPの現状かもしれない。
5.Webアシスタントツール
ここでは、Webサイト運営に役立つアシスタントツールとして、「Web接客ツール」と「レコメンドツール」について紹介したい。大前提として、アシスタントはアシスタントであり、本体――つまり、Webサイト――がダメなところをアシストしたところで大した成果は見込めない、ということには留意してほしい。
Web接客
Web接客ツールは、日本的な「おもてなし」をWeb上でも提供することを目指すツールである。主にサイトからの離脱率やコンバージョン率、購入率の向上をめざして導入されることが多い。
おすすめのコンテンツ、キャンペーン、商品などをユーザーに分かりやすく表示することで、ユーザー体験を向上し、ストレスを軽減したり、思わず購入してしまうよう誘導することができる。
だが、できることは誰にでもできることなわけではない。ここで重要なのは、ユーザーを誘導しようとしすぎないことだ。するべきことは、あくまで「接客」であり「おもてなし」だということを忘れてはならない。
そうしないと、訪れたWebサイトがただただ、自サイトの広告を延々と表示したり、見たくもないおすすめコンテンツを表示されて迷惑なだけという結果になりかねない。
たとえばあなたも、店舗に訪れて、店員が空気を読まずに近づき、自分が欲しくもない、興味もないような商品を「新商品でここが良くて…」などと延々と説明を始めうんざりした経験はないだろうか。ではそのうんざりした時、その店員が勧めてきたものを買おうと思っただろうか?
そう、接客は上手であれば良い結果に結びつくが、下手であればまたそれなりの結果に結びつくのだ。使い方はくれぐれもお間違いなく。
レコメンド
レコメンドエンジン、レコメンドツールも、Web接客ツールと似たような使われ方をするツールだ。ショッピングサイトなどで「あなたにおすすめ」とか表示されるのはそれだと思っていいだろう。
基本的にはECサイトで商品のレコメンドがなされることが多く、これは閲覧履歴や購買履歴、ユーザー属性などなんらかの基準に基いてレコメンドされているものだ。
このツールも基本的にはコンバージョン率・購入率を高めることや、リピートを増やすためのツールなのだが、回遊率向上のためにメディアがコンテンツをレコメンドするケースもあり、コンテンツのレコメンドエンジンといったものも存在する。
このレコメンドは、弱点もWeb接客ツールと似たようなものだ。しょうもないものをレコメンドしてしまうとユーザーの心証を損ない、「このサイトは分かっていない」と思われてしまい、逆に購入や回遊からユーザーを遠ざけてしまう。
そういえば昔マク○ナルドでアルバイトをしていた時、「ご一緒にポテトはいかがですか」とレコメンドするようなトレーニングがあった気がする。
わざわざセットではなく単品を購入している時点で空気を読めという客には逆効果だっただろうし、せっかく勧めてもらったからやっぱり食べようかという客には効果があっただろう。
このようにレコメンドはどちらにも転ぶ可能性があることを正しく認識しておくべきだ。失敗しても何もなければ良いのだが、失敗すると大きく心証を損ねたり、買ってもらえるものも買ってもらえなくなる可能性もある。
Web接客ツールについても言えることだが、導入することよりも、運用をいかに上手に行うかがカギとなるだろう。
6.SNS系ツール
マーケティングにおいてその重要性が着々と上がっている、SNS。その活用にあたって役立つツールについてもその概要を紹介しようと思う。Webアシスタントツールと同様、SNS本体が目を覆う惨状なのであれば、以下の文を読む必要はないかもしれない。残酷だが、知るだけ無駄ということも世の中にはあるのだ。
ソーシャル運用
ソーシャルメディアの運用にあたってよく課題となるのは、複数のメディアをどのように使い分けながら運用するかということと、ソーシャルメディアの特性上、双方向のコミュニケーションが発生するため、運用負荷が大きいこと、そして炎上などリスク対応の難しさといった点だろう。
ソーシャルメディアの運用ツールはさまざまで、特定のソーシャルメディアに最適化されているもの、投稿やコミュニケーションの履歴を統合管理するもの、後述するリスニングもできるものなどさまざまだ。
このような運用ツールの活用によって、ソーシャルメディアの運用を効率化することが可能となる。ただし、これもまたツールに過ぎない。コミュニケーション能力が絶望的でコミュニケーションが成り立たなかったり、そもそも目的から間違えていて、単に宣伝目的でソーシャルメディアを使おうしているような場合に、その絶望的な状況を打開できるわけではない。
まずはソーシャルメディアについてよく研究し、どのような運用を行っていくのかをきちんと設計しなければ、運用ツールでどれだけ効率化しても、無駄な運用を効率化するに過ぎないのだ。
ソーシャルリスニング
ソーシャルリスニングツールは、ソーシャルメディア上での口コミやコメントなどから、消費者の生の声を収集し分析するツールだ。
だいたいソーシャルメディアというのは、ユーザーが好き放題言っている場所だ。とくに日本人というのは、面と向かってクレームをあげることはないが、不満を抱えていることがあり、その不満をソーシャルメディアで吐き出していたりする。
一方で、直接感謝したり褒めることはなくとも、ソーシャル上でポジティブに評価していたり、ひょっとするとつながりのある他のユーザーに勧めたりしているかもしれない。こうした行動は、あなたも心当たりがあるのではないだろうか。
こうしたソーシャルメディア上の消費者の生の声をマーケティングに活かそうというのがソーシャルリスニングの目的であり、さまざまなことが見えてくるのはまちがいない。
ただしソーシャルというのは悪口の方が目立つ世界であるため、それなりの覚悟を持って取り組まなければ、罵詈雑言の嵐を目にし、マーケティングなどを放り出したくなったり、もっというとこの会社にいる理由は何かという根本的な悩みを生む可能性がある。
とくに匿名性の高いソーシャルメディアは、過激な発言や炎上が起こっている可能性もあるので、心を強く持とう。
7.解析系ツール
最後に、Webサイトの分析改善に役立つ解析系のツールを取り上げよう。こういった解析系のツールは、マーケティングに欠かすことができない。しかし、データというのは無限の可能性があり、捉え方次第でどうとでも捉えることができる。この迷宮に入ったが最後、あなたはそこから出られないかもしれない…。
Webアクセス
むしろ、Google Analyticsというほうが分かりやすいかもしれない。Webサイトのトラフィックや、その背景にあるユーザー行動を分析するツールだ。
こうしたツールはデジタルマーケティングが発達した現在では、基本的なツールといえるため、使ってみた経験のある人は多いのではないだろうか。取得できたデータから、全体の傾向やユーザーの行動、さらには改善点を浮き彫りにすることができる。
ただしWebアクセスから得られる情報は膨大であるため、何をめざすのか、どのように分析するのかといった点が明確でなければ、データの海で溺れることになる。そして残念ながら多くの場合、溺れた後、誰かが救いの手を差し伸べてくれることはない。
また、せっかく完璧な分析ができていたとしても、改善点を改善できなければ、結局毎回分析するたびに同じ結論になるだけで、進歩していないことが証明されるだけになってしまうこともある。
基本的なツールであっても、これだけ落とし穴があるということを、よく理解しておこう。
ヒートマップ
アクセス解析ツールで定量的な分析は行えるが、限界はある。つまり、Webサイト上のコンテンツがどれくらい、どのように見られ、どんな導線をユーザーが辿っているのか、といった点を解析するのには限界が出てくる。
そこでヒートマップツールのようなツールが登場するわけだ。ユーザーの行動を分析し、可視化する。そうすることによって、アクセス分析だけでは見えなかった、新たな課題を見つけることができる。
だがこれは、マーケターにとって悩みのもととなることがある。つまり、新たな課題を見つけるということは、新たに取り組むべきポイントが増えるということにもつながるのだ。やらなければならないことはどんどん増えるが、手が回らない…という状況に覚えはないだろうか?
多くの課題が見つかっているということは、課題がたくさんあるのに見つかっていないよりは良い。だが、課題を見つけていても解決も改善もしなければ、見つけた意味はないにも等しい。分析した結果をどのように活かすのか、その後のアクションこそが重要なのだ。
デジタルマーケティングの世界でも、ツールはツール。正しく理解して有効な活用を。
デジタルマーケティングのツールについて、いくつかに分類して解説してきた。くどいようだが、ツールはツールであり、どのようにうまく活用できるかがポイントだ。
ツールを導入するのには時間も費用もかかることが多く、そもそも導入にあたっては事前の期待が大きい場合が多い。
だが、ツールが世界のすべてを変えるわけでもなければ、魔法のように理想的なマーケティングが実現できるわけでもない。ツールが成果につながるような設計や、しくみづくりができなければ、どれだけ強力で実績のあるツールを導入しても、マーケティングを成功させることは難しい。
ツールを使いこなせるようなスキルを身に着け、実際にツールを活用しながら得る学びを活かしていくことこそ、ツールそのものより重要なものではないだろうか。