ドラえもんがいるなんて、まったくのび太はうらやましい、と思ったことはないだろうか。
では、よく考えれば、ドラえもんがすごいのか、それともひみつ道具がすごいのか、と思い悩んだことはないだろうか。
これはなかなか難しい問題だ。つまり、ひみつ道具がなければ、ドラえもんはドラえもんたり得ない。ピンチののび太を助けることができないし、そもそもタイムマシンに乗って机の引き出しから飛び出してくることができないから、ドラえもんというストーリー自体が始まらない。
一方で、ひみつ道具があればいいというものではない。ドラえもんがいても、のび太は大概、ひみつ道具を使って調子に乗って失敗して終わりだ。
もしドラえもんがいなくて、ひみつ道具とのび太だけだとしたら…のび太が調子に乗りすぎてどんな悲劇が起こることだろう。もはや楽しいマンガやアニメとはいえない惨劇が繰り広げられてしまうことは容易に予想ができることだ。
やはり、ドラえもんが主役であり、マンガのタイトルが「のび太と夢の四次元ポケット」ではなく「ドラえもん」であることは正しいのだ。
マーケティングの世界で起こる「のび太と夢の四次元ポケット」
ところがマーケティングの世界においては、ドラえもんがいない状況に陥りがちだ。
つまり、状況や課題に応じて最適なツールを選択し、活用するという役割が正常に機能していない、ということだ。
その先にある光景はこうだ。目の前に良さそうなツールがあれば、とりあえず使うことにする。
だが、ドラえもんがいないのび太がひみつ道具を使うかのごとく、適切な使い方はできないだろう。まぐれか奇跡を祈る以外は。結果、のび太が起こすような悲劇がーーマンガの中ではなく、現実の世界でーー起こることになる。
何のために使っているのか、何に使うのか、どう使うのか、明確ではないままとにもかくにも「成果が上がる」「課題が解決できる」魔法の杖を手に入れられると考えることすらあるかもしれない。
だが現実には「空を自由に飛びたいな!はい、タケコプター♪」というわけにはいかない。「空を飛びたい」と思っているあなたが選んだそのツールは、実はスモールライトなのかもしれないのだ。
そうしてーー悪いのはひみつ道具そのものではなく、適切にチョイスするドラえもんがいないことなのだがーー、「このツールは使えない」というレッテルが貼られる。
ここで理解しておきたいのは、真実は少し違っているということだ。「このツールは使えない」のではない、「このツールを自分たちが使いこなせていない」のだ。
この真実と向き合うことはとても重要だ。「このひみつ道具はダメだった、四次元ポケットから別のを引っ張り出して使ってみよう」と考え、問題の本質を見誤ったまま、悲劇を繰り返すばかりだろう。
本当に課題を解決するために必要なのは、はたして新しいひみつ道具なのだろうか?
マーケティング課題を解決するために、ドラえもんになるか。ドラえもんを探すか。
問題なのは、「ひみつ道具そのものの性能」ではなく、「ドラえもんの不在」であるはずだ。
ゆえに妥当な解決策としては、自らがドラえもんとなるか、ドラえもんのようなパートナーを見つけること、といえるだろう。
しかし、これが難しい。
自分がドラえもんとなるためには、自社の状況だけではなく、世の中に出回っている、マーケティングツールと呼ばれるやつに関しても造詣が深くなければならない。
一方で、マーケティングツールというやつを販売する会社はたいてい、「ツールありき」の課題解決方法を提案するのが仕事だ。
よしんば、総合代理店と呼ばれるような、「いい具合に提案するのが仕事」というようなポジションでも、なかなかテクノロジーやツールと、クライアントのビジネスと、両方に対する深い洞察ができる人材というのは、極端に限られるといっていいだろう。
つまるところ、のび太がドラえもんに出会えたのが幸運であるように、ドラえもんのような自社のプレイヤーあるいはパートナーに恵まれるということは、相当な幸運が求められることと言って良いだろう。少なくとも現状においては。
では、ドラえもんになれない僕らは、ドラえもんが見つからないあなたは、もう、あきらめるしかないのだろうか?
いや、あきらめるには早い。ドラえもんではなくても、ドラえもんが見つからなくても、できることは、やれることはあるはずだ。
ツールはあくまでツール。そう考えるところからマーケティングを見つめてみよう。
たとえばここに、ノコギリがあるとしよう。
ノコギリがあれば、木は切りたいように切れるのだろうか?そして、切りたいように木を切って、家がきちんと建つのだろうか。
答えは、否、だろう。
ノコギリを使いこなす職人技が必要だし、家を建てるにはそもそも「それぞれの木をどのように切るのか」を決める設計図が必要になる。
このことから得られる教訓を、真剣に考えるべきだ。あたりまえのことではあるのだが。あくまで、ノコギリはノコギリ。道具は道具、なのだ。
これは大工道具だから、という話ではなく、マーケティングにおいても当てはまる。ツールはツール、サービスはサービス、なのだ。
優秀で実績のあるツールがあれば課題が解決できるわけでも、成果が上がるわけでもない。ドラえもんがいるとは限らないちっぽけな僕たちは、まずその事実を正しく認識することが必要なのではないだろうか。
ツールやサービスを選ぶ際には、自分たちの課題を解決する、あるいは成果を最大化するために、以下のような問いを投げかけてみることは、助けになるかもしれない。
・そのツール・サービスによって何を成し遂げようとしているのか
・なぜ、そのツール・サービスが最適だと考えられるのか
・そのツール・サービスをどのように用いるのか
ひみつ道具があれば無敵なわけではないように、優れたツールがあるから成功を手にできるわけではない。
重要なのはむしろドラえもんであり、世に多く送り出されている優れたツールを「目的に沿って使いこなすこと」の方だ。
ーーいつか、ドラえもんになれる日を夢見て。