意外なことに、ダーツが役立つ!?ダーツの魅力を(一応)プロが考えた

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東京に来てから間もないある日、僕は仙台に行った。

何もどうしようもなく牛タンが食べたくなったとか、ずんだが食べたくなったとか、そういう話ではない。

たまたま、その頃仲良くしていた友だちが住んでいた。クソ野郎ではあったが、それはお互い様だ。彼はB’zが好きで、僕はMr.Childrenが好きだった。

そんな僕らが、ふと時間潰しに寄ったビリヤードのお店が、僕の人生を変えた。いや、人生を変えたなどというと大げさかもしれないが、でもそこからすべては始まったのだ。

そこで親切な店長に教わって、僕はダーツを覚える。そしてたまたま、神がかったダーツをした時に、彼が放った一言が、僕をその気にさせてしまった。

「すごいですよ、プロ並みじゃないですか!」

そして、ダーツのプロになる。ぶつかった壁、そして出会い

そして、ダーツのプロになる。ぶつかった壁、そして出会い:イメージ

東京に戻った僕は、マイダーツをゲットし、ゲーセンのような場所で、ひとりで黙々とダーツに取り組んだ。暇があれば、ひたすら投げた。

そうだ、プロ並みのセンスが僕にはあるのだ。練習さえすれば、超一流も夢じゃないはずだ。そんなことを考えながら。

――だが、全然上達しない。当時のDARTSLIVEのRATINGでいえば、5とか6くらいのものだ。これがどのくらいか、率直に言うと「ちょっと上手なただの素人」だ。「プロ並み」などというのは噴飯もので、まったくお話にならないレベルだ。

それでも、ダーツは楽しかった。東京に来て、何もかもに馴染めない僕にとっては、ダーツを投げる時間こそが、自分が自分であれる時間だったのだ。

ダーツは楽しい。好きだ。だけど、思うようにはうまくならない。そんな僕に、転機が訪れる。

転職した僕の勤務先の目と鼻の先に、あやしげなダーツショップがあった。そして、そのショップの、髭がトレードマークのタトゥーまみれの強面の店員が、僕のプレーヤー人生を変える。

いや、正確にはもうひとり、頼りない店員がいて、彼が僕を誘ってくれたことからすべては始まっている。

まあ、細かい話はいいだろう。いずれにせよ彼らとの出会い、そしてその店の客であった人々との出会いが、僕のぶつかっていた壁を越える力となり――そして、気づけば僕はプロになっていた。

※ちなみに日本にはダーツのプロ団体が2017年時点、2団体存在している。筆者が保有しているのはそのうちの1団体「PERFECT」のプロ資格。

だが、プロというのは残酷なまでに実力社会だ。「強いものが正義」なのだ。その中に飛び込んで、すぐに通用するほど甘くはない。だがこのことこそが、僕を成長させる大きなポイントとなる。

勝つためにどうするか。準備の大切さと、ベストを出し切る難しさ

勝つためにどうするか。準備の大切さと、ベストを出し切る難しさ:イメージ

プロの試合というのは、予選ラウンドロビン、いわゆるリーグ方式での対戦から始まる。

僕が所属している団体(PERFECT)でいえば、1グループは5人ないし6人で構成され、その中で4試合を行い(したがって、全員と当たらない場合もある)、上位2名+αが決勝トーナメントに進出する。

つまり、予選で敗退する人間の方が多い。しかも、相手もプロ資格を持っているのだから、余裕で勝てる相手などいない。どちらかといえば、自分がトップ選手に余裕で勝たれてしまうようなレベルだ。

――という環境に置かれると、どうなるか。

手段は選んでいられない。そうだ、嫌がらせでもして…

いやいや。これはプロスポーツの世界の話だ(そうは見えないかもしれないが)。スポーツマンシップに則って戦わなければ、勝ったところで意味はない。

では、どうするか。

考えるのだ。勝つために、何をするべきなのか。負けたのはなぜだったのか、何が足りなかったのか。本番までの準備を、日頃の練習をどう行えば、足りなかったものを埋められるのか。

準備がすべて、とは言わないが、準備できていない者には、奇跡は起こらないとも思う。そして、「準備してきた」と言い切れることこそが、時にメンタルゲームとなるダーツの試合においては非常に重要なのだ。

と、同時に――。

どれだけ準備を重ねたとしても、ベストを出し切ったといえる試合は、そう多くない。刻々と移り変わる自身のコンディション、会場や周囲の環境など、敵は相手選手だけにとどまらない。

あのとき、もし、こうしていたら、ここであの試合くらいのダーツができれば、などと嘆いても、終わった試合は戻らない。

考えに考え、最大限の準備を行い、その時できる限りのベストを尽くす。それでもまだ、勝てない。自分の力だけではコントロールできないこともある。それが、ダーツから学んだことだ。

考え、準備し、ベストを尽くす。それでもコントロールできない。それはまるで仕事のよう

考えに考え、わずかにでもチャンスを生み出すために準備し、そのチャンスを仕留めるために全力を尽くす。

どれだけやっても勝てないこともある。だが、あきらめなければ勝てることもある。

これは、実は仕事にも通じるところだ。そう、意外と仕事に役立つ学びが、その世界にはあるのだ。

ただし、これは仕事をほっぽらかして、酔っ払ってテキーラマッチをしながら適当にダーツを投げていても学べることではないかもしれないので、誤解しないようにしてほしい。

さて、真剣勝負の世界においては、考え、準備し、ベストを尽くすことや、それでも勝てない、コントロールできない現実があることを受け入れることはあたりまえのことだ。

だが、どれだけ同じように真剣に仕事に取り組んでいるサラリーマンが世の中にいるのだろうか、と思う。

少しえらそうに言い過ぎたかもしれない。正しくは、――残念ながら事実として――僕自身も仕事にそこまで真剣に取り組んでいるわけではないだろう。

とはいえ、もし仮に、仮にだ。ダーツに取り組むほどの真剣さが仕事に対しては発揮できていないとしてもだ。――しつこいようだが、これは仮の話だ――ダーツの世界で真剣勝負を重ねていくことで、「あたりまえ」のレベルが上がっていく。

つまるところ、たとえダーツほどではなくとも、「考え、準備し、ベストを尽くすこと」のレベルは、真剣勝負をくぐっていない――あるいは、その感覚を忘れてしまった――人たちよりは高くなるだろう。

そしてそのことは、仕事のパフォーマンス向上にも、多くの場合つながるはずだ。――もっとも、練習のしすぎで日中眠気に襲われ、仕事のパフォーマンスが低下した経験もあるので、効果を保証できるわけではないが。

もちろん、真剣に何かのスポーツに競技として取り組めば、同じような効果は得られるにちがいない。それがマラソンでも、野球でも、サッカーでも良いだろう。

大切なのは、良いルーティンを身に着け、自分の感覚を研ぎ澄ませ、ギリギリの真剣勝負を重ねることで、通常のレベルを引き上げることではないだろうか。少なくとも、僕はそう思う。

ダーツはメンタルスポーツ。だからこそ、役に立つのは仕事だけじゃない

ダーツはメンタルスポーツ。だからこそ、役に立つのは仕事だけじゃない:イメージ

ああ、言い忘れていた。他のスポーツと比べてダーツは、メンタルの影響が大きく出やすい傾向にある。

ダーツの最後の1本、勝利を決める1本というのは非常に緊張を要することがある。たとえば相手がスター選手であったり、たとえば予選抜けがその1本にかかっていたりすれば、なおさらだ。

普段の練習ではあり得ないようなミスショットが生まれたり、得意なところなのに外したりすることだって、ざらにある。

だが、このことが、意外な副作用として、仕事だけでなくそれ以外の場面でも生きることがあるのだ。

仕事にせよ、プライベートにせよ、緊張する場面というのは訪れるものだ。たとえばそれは上司や役員、社長と話す際かもしれないし、顧客の前や、あるいは人前でなんらかのプレゼンテーションなどをする時かもしれない。もしくは、初対面の人と話す時や、好きな人に告白する時かもしれない。

どんなシーンであるにせよ――「あの試合の、あの瞬間の緊張を乗り越えて勝った自分」がいれば、緊張に適応できる。

その緊張は試合で味わうものより大きいかもしれないし、小さいかもしれない。だが、「緊張する状況下でいかに自分をコントロールするか」というスキルは、緊張の大小にかかわらず、役立つものだ。

メンタルコントロールとは、自分の脳をいかにコントロールするか=自分をいかにコントロールできるかということであって、心の持ちようとか、前向きであれとか、そういうことではなく、スキルなのだと僕は思う。

したがって、緊張した状態で冷静でいるためには、そのコントロールのスキルを磨く必要がある。だが、ふだんの生活ではなかなかそのスキルを磨く機会には恵まれない。

しかし、だ。ダーツという魔物に取り憑かれてしまえば、リーグ戦で、トーナメントで、あるいは日々の練習において、魔物に向き合うなかで――もちろん、本気で勝ちたいと考える前提が必要だが――緊張下でのセルフコントロールのスキルが磨かれていく。

もちろんこのことも、ダーツだから、という話ではない。他のスポーツであっても、真剣に取り組めば当てはまることだろう。

だが微妙なコントロールが要求され、個人戦であり、メンタルの影響が出やすいという条件が揃っているからこそ、仕事だけでなく、生活のさまざまな面で役立つ可能性のある、自分をコントロールするスキルが磨かれやすい。これもまた、事実だろう。

ダーツは気軽に遊べる。その魅力をまずは知ろう

ダーツは気軽に遊べる。その魅力をまずは知ろう:イメージ

ダーツに真剣に取り組めば、仕事にもそれ以外にも役立つ場合がある。これは僕の経験から感じていることだ。

一方で、べつにそんなに真剣にやる必要のあることなのかというと、そんなことはない。お酒を飲み、美味しいものを食べ、友だちとグダグダ喋りながら、ちょっとダーツする、そんな楽しみ方もダーツの魅力のひとつだ。

幸い、都会であれば、ダーツを投げられる場所にはあまり困らないだろう。漫画喫茶のようなところやゲームセンターなどに設置されている場合もあるし、ダーツバーもたくさんある。

ダーツバーなどは初心者にとっては敷居が高いという話もよく聞くが、空気さえ読めればどれくらい上手かどうかはあまり関係ない。むしろ教えてほしいと頼めばしっかり教えてもらえる環境なのがダーツバーだ(ただし、店員のレベルによる。あなたが行く店にきちんとした店員がいることを祈りたい)。

だからまずは、気軽に遊ぼう。気軽に遊んでいるうちに、本気で、真剣に取り組みたくなったら、そうすればいい。

真剣に取り組み、勝負の世界に漕ぎ出したその時には、さまざまな壁とともに、ダーツの技術だけではない、さまざまなスキルを身につけるチャンスにも出会えることだろう。

カトウマモル

セキュリティエンジニア、社内SE、社内システム&マーケティング・広報担当マネージャー、コンテンツマーケティングのコンサルタントなどを経て、現在は奄美大島でリモート幽霊社員生活を満喫中。

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