KPIなんていらない。
これは極論だが、だがKPIに囚われて、発想もアクションの幅も狭めてしまうくらいなら、そんなものない方がマシだ。
そして、その発想の根底にあるのは、「そもそもKPIを使いこなせていない」現状があるからこそだ。
KPIを適切に設定することは、自分たちの考えや行動が正しいか否か、仮説を検証するために必要不可欠だし、どこまで進捗しているのか、現状を把握するためにも有用だ。
だが、KPIを適切に設定できない例が多い。あまりにも多すぎるのだ。今一度言っておく。きちんとしたKPI設計や設定ができないのなら、KPIなど置かない方が良い。知ったかぶりをして、不適切なKPIを置くことこそが、最も悪だ。
不適切なKPIに照らした仮説の検証も、進捗の確認も、まちがった分析や、まちがった解釈や、まちがった現状認識にしかつながらないのだ。
では、適切に設定するためにどうすれば良いのだろうか?
KPIとはなにかを正しく理解する
そもそも、KPIとは何だろうか。単に言葉の定義でいくならば、Key Performance Indicator、日本語では重要業績評価指標、などと言われていたりする。
ここで気づくべきなのは、KPIは「重要な指標」ではあるが、「目標」ではないということだ。ちなみにその「目標」にあたるのは言わずもがな、KGI(Key Goal Indicator)であり、このKGI達成に向けた「重要な評価指標」がKPIだ。
もう少し分かりやすく、フルマラソンを走るトップランナーの場合を仮定して見ると、こういう関係になるだろう。
KGI・・・ゴールタイム:2時間10分以内/順位:3位以内
KPI・・・折り返し地点のタイム:1時間5分以内/折り返し地点の順位:トップグループ内
現実にはもっと細かく、10kmごと、あるいは5kmごとなどにタイムの目標を設定することだろうが、ここでは説明のために単純化した。
大切なのは、KPIというのは、KGI達成に向けた進捗を評価するため、また必要なアクションを整理し、各々が順調かどうかを確認するために設定されるものだということだ。
KPIの達成が最重要なのではないことは明らかだし、それが目的となっては意味がない。折り返し地点を1時間5分以内で走破するために必死で走り、体力切れを起こしては意味がないのだ。
そうではなく、ゴールを2時間10分以内に走りきるために適切なペースで走れているかを確認するために、KPIがある。
ゆえに、KGIが明確でない状況において、KPIは存在するはずがなく、仮に存在するとしたらそれは意味のないものか、まやかしなのだ。
たとえばオウンドメディアにおいて、「KPIはPVです」と誰かがいうかもしれない。
ではKGIは何なのだろうか?そしてそのKGIはその施策の目的と合致しているのだろうか?いや、本当はKGIがPVなのではないのか?
もっと根本的な話をすれば、そのKPIは何のKPIだろうか?「オウンドメディアの」KPIなのだろうか、「コンテンツマーケティングの」KPIなのだろうか、それとも「マーケティング全体の」KPIなのだろうか?
こうした点がすべてクリアになっているうえで、「KPIはPVです」というのであれば問題はないのだが、実際にそういったケースは少ない。
単になんとなく「とりあえずPVですかね」というような形でKPIを決めてしまうと、PVが目標値に達したところで、そのPVがどう貢献するのかが定義されていない状況に出会う。
そして、「で、なんだっけ?」「オウンドメディアって意味あるの?」「コンテンツマーケティングってコスパ悪いよね」といったつまらない話になってしまう。
こうして、KPIと称するものによって、コンテンツマーケティングが死んでいくのだ。本当はコンテンツマーケティングではなく、KPIのまちがった設定こそが悪の権化なのだが、誰もそのことには気づかないままに。
KPIを正しく設定するためのポイント
そう、大抵の場合、正しい理解のもとに、適切なKPI設定がなされないのにも関わらず、そのKPIが「追うべき指標」とされることから悲劇が始まる。
そして次に、「KPIの目的化」が起こる。つまり、適切に順序を追って設定されていないがために、いつのまにかKPIの達成が施策の目的になってしまうのだ。
本来の目的は、KPIの先にあるKGIの達成であるはずなのに、だ。
では、どうすれば良いというのだろう。扱えないものは使わない方が良い。つまり、KPIを正しく設定し、適切に活用してKGIの達成を図ることができないのであれば、最初からKPIなどは目安程度だと割り切った方が良いだろう。
その場合、めざすべき定性的な状態を定義し、そのコンセプトに基づき施策を展開していくことが重要となる。
だが現実はそんなに甘くはない、とあなたは思うだろうか。KPIを設定しないでマーケティングを、コンテンツマーケティングを進めることなど、できるわけがない、と。
しかしそうであれば、もう、これしかない。つまり、KPIに振り回されないこと、KPIを正しい立ち位置で、適切に使いこなすこと、だ。
そのためにどうすればよいか、ポイントをいくつかあげてみよう。
1. スケールを明確にする
KPI設定をするにせよ、KPIツリーをつくるにせよ、「どういったスケール」でつくるのかを最初に把握するべきだ。
マーケティング全体のKPIを設計するのだろうか?であれば、マーケティング全体のKGIは何だろうか?
コンテンツマーケティングといった特定の分野のKPIを設計するのだろうか?であれば、コンテンツマーケティングのKGI(通常、マーケティング全体においてコンテンツマーケティングに設定されているKPIと同じものになるはずだ)は何だろうか?
スケールによって、大元となるKGIが異なる。KGIが異なるということは、当然その中間指標となるKPIも異なるということだ。
大抵の場合、まちがったスケールで設定する、というよりは、スケールを意識せず、ただただ施策と目標値のセットでKPIを無理やり設定しているというところが失敗の原因となっているように思える。
KPIを設定する時は、どういった場所でKPIを設定しようとしているのか、一度立ち止まって俯瞰してみよう。
2. 目的→戦略→戦術という流れに沿って組み立てる
順番が大切だ。まず、目的があり、その目的に向けてKGIが設定される。
そしてKGIに到達するための戦略がある。その戦略に沿った戦術があり、それらを評価する重要な指標がKPIとなるのだ。
この流れに沿って組み立てなかった場合、ない方が良いKPIと、そのための不毛な消耗戦が待ち受けることだろう。
この流れに沿って組み立てられない場合には、こんな問題が起こる。
施策ありきのKPI設定
施策が本来必要なのか、何に貢献するのかが曖昧でKPI達成したところで、何の意味があるのか誰にも分からない。
謎に包まれたまま、その施策は無駄な施策と位置づけられ(それが本当かも分からないが、とにかくコストがかかることが許されないだろう)、消えていく。
KGIとKPIが合わない
施策ありきのKPI設定や、KPIありきのKPI設計をすると、大概はこうなる。
「あれ?このKPI、KGI達成に貢献するのか?」
冷静に考えると、そんな疑問が湧いてくるような設計に、なぜかなっている。最初からきちんと順を追って組み立てていれば、そんなことにはなり得ないのに、だ。
そして、気づくのだ。KPIを達成した先には、何もないという、虚無に。
KPIの根拠がない
設定されたKPIである「売上○万円」「○万PV」…。
だが、正しい順序で設計されていない場合、これらのKPIの数値には根拠がない。いわゆる、「鉛筆をなめた」状態になる。
そして負の連鎖が生まれる。根拠のないKPIを追う終わりなき旅が始まり、その結末は「(根拠のない)KPIを達成できないからこの施策はダメ」という神のお告げである。
ああ、なんと嘆かわしいことか…!
3. 客観的に全体を見直し、最適化する
もし仮に、明確なスケールに対して正しい順序で適切なKPIができた…と考えたとしても、もう一度見直すのは重要な事だ。
果たして本当に、KPIはKGIに対して適切な指標となり得ているだろうか。KPI同士が重複していたりはしないだろうか。そして、KPIに対するアクションは明確になっているだろうか。
個別のKPIを正しく設計できたとしても、全体として最適な状態になっているかは分からない。
忘れないでほしい、あくまで目的に到達するためには戦術より先に戦略――つまり、戦いを略すること――があるのだ。
KPIは多く設定できれば良いというものではない。むしろKGIへの影響が大きなもの、本質的に必要なもののみに集中する方が成功への近道だ。
実際に動き出した後で、べつにKGIにはさほど大きく影響しないのに(そのKPIが達成できなくてもKGIは達成できるのに)「このKPIが…」となってしまうのであればそれは、全体の最適化ができていない可能性が高い。
そうならないためにも、KPIを設定したら終わったとホッと一息つくのではなく、客観的に全体を見直し、最適化するところまでが仕事だと考えて取り組んだほうが良いだろう。
そのコンテンツマーケティングは誰のため?
KPIを適切に設定できたからといって、KPIの立ち位置を見誤ってしまっては意味がない。
あなたのマーケティング、コンテンツマーケティングは誰のためのものなのだろうか?
当然、マーケティングを行う以上、最終的に自社にとってなんらかの利益をもたらすものでなければならないだろう。
しかし一方で考えなければならないのは、いまや見込み客、顧客そして潜在層のユーザーに至る、社会に役立つコンテンツを用いてマーケティングを行わなければ、誰からも振り向かれなくなる時代になっているということだ。
そしてコンテンツマーケティングは、そうした背景のもとで注目され、必要とされた手法であるはずだ。
――もう答えは出ているはずだ。KPIのためのマーケティングはやめよう。KPIのために、コンテンツを配信するのも、そうだ。KPIのためのコンテンツマーケティングは、まちがいなく失敗する。
もっとも、KPIは、適切に設計されているのであれば、現状を評価するための指標としては有用だし重要だ。だが、もっと重要なこと――目的やユーザー、そして本質的に成すべきこと――に目を向けられなくなるのなら、やはりKPIなんていらないのかもしれない。