マーケティングに携わる人が知っておきたい、たった1つの真実

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マーケティングは難しい。ビジネスやサービス、商材、ポジションやマーケットの状況など、無数のパラメーターが存在し、同じ状況はひとつとして存在しない。

だが、BtoBであれBtoCであれ、無形商材であれ有形商材であれ、リーダーであれチャレンジャーであれフォロワーやニッチャーであれ、マーケティングに携わる人間であれば知っておきたい、真実がある。

それも僕に言わせれば、たったひとつの、当たり前のことだ。

だが、その当たり前のことを――知っているはずなのに――知らないも同然の行動を取っている自称マーケターや、自称広告のプロは数多くいる。

しかし、知ってか知らずか、そうすることにより、ほとんどの――ひょっとするとすべての――施策は無に帰するかもしれないし、今までの血と汗と涙の努力も無駄になっているかもしれない。

さて、その真実とは、何だろうか。その前に、考えておきたい憂うべき現実に目を向けよう。

顧客の行動は予想でき、コントロールできるという幻想

顧客の行動は予想でき、コントロールできるという幻想:イメージ

多くの分析と調査を重ねれば重ねるほど、この幻想は強くなり、いつのまにか現実と幻想の狭間をさまようことになる。

顧客の行動は予想できる。調査とオンライン上のデータを分析することで、顧客の行動は把握でき、顧客をどのように購買へと導けば良いのかが理解できる。

だから、マーケティングにおいて行うべきなのは、顧客を購買へと導く過程において、適切なタイミングで、適切なメッセージを届けることなのだ。

だが本当にそうなのだろうか。これだけ人も、人の行動も、その行動を左右する情報も多様化した現代において、誰かの行動を理解したり、予想したり、ましてコントロールすることが、可能なのだろうか。

――可能だ。ただし、ある程度までは。

僕はそう思っている。その反面、こうも思う。

すべてを理解し、予想し、コントロールすることは不可能だ。つまり、理解し、予想し、コントロールできるのは、あくまで表層の一部分、あるいは物事の一面においての話なのだ、と。

これは相反することのように思えるだろうか。だが、幻想と現実は異なる。

人の行動というのは決して合理的ではないし、アンケート結果すら本音ではないことが多い。アンケート調査の結果などはある程度設問の投げかけ方でコントロールできるものなのだ。

だからといって、アンケート結果がすべてウソに彩られた、何にも使えないデータかというと、それも違うだろう。

ここで大切なのは、幻想を幻想として認める――つまり、顧客に対する理解や予想は、及ばない部分が必ずあり、誰かの行動をコントロールすることが相当困難であるということを認めることだ。

自分たちが調査やデータ分析から得ているものは、それほど大きなものではないということを謙虚に認めなくてはならない。

しかし多くの場合、この現実は握りつぶされ、マーケターたちは幻想のもとに行動しているように感じられる。なぜなら彼らの常識は幻想に基づいており、それに疑問を抱く人が少ない――あるいは、それ以外の手がないと考えている――からではないだろうか。

幻想から生まれた、常識とされているものは本当に正しいのか

顧客の行動は予想し、コントロールできる。

この幻想が色濃く反映されるのが、近年広がっているマーケティングツール――たとえばMAやCRM、SFA等――を設計し活用する段階ではないだろうか。

見込み客の、あるいは顧客のステップに合わせて適切にアプローチし、メッセージを発信すれば、見込み客や顧客はより興味関心を高める。それが売上に――セールスあるいはリピートやアップセルに――つながる。

そう、カスタマージャーニーに沿ってアプローチしよう!見込み客が「ホットリード」になったらセールスにアラートをあげ、顧客が再び購入を検討する(あるいは、他のものを購入する)タイミングでメールを送ろう!そうすれば売上が上がるのだ!!

たしかに、数字は事実を物語る。やらないより、やった方が売上が上がる。しかしよく考えればこれは当然のことだ。

「できていなかったことができるようになっている」「漏れていたものが漏れなくなった」のであれば、できていなかった時より、漏れていた時より、良い結果が得られることだろう。むしろそれができないのであれば驚きだ。

ひとつ、実際にあった話をしよう。

とあるマーケターKが、MAの開発元M社が開催したセミナーに参加した。あたりまえのことだが、セミナー後、Kには、M社からメールマガジンが送られてくる。

一方、Kは自社にMAを導入するのは時期尚早と判断しており、具体的な構想や導入予定などというものは存在しなかった。

だが、M社はそんなKの事情はおかまいなしに、ひっきりなしにメールを送りつけてくる。そして、そのメールは勝手にどんどん導入へのステップを進んでいく。

Kは思った。「これがマーケティングオートメーションか」と。そして彼は考えた。

「MAの開発元であり、プロフェッショナルであるM社ですらこんなものなら、自社に導入しても迷惑メールを増やすだけではないか」

「もし仮にMAを導入するにしても、M社は使わないでおこう」

もちろん、M社は優秀なMA開発企業だ。おそらく彼らのシステム上のスコアリングが、Kをホットリードに位置づけるということはなかっただろう。

だが、マーケティングを推進する強力なツールであるはずのMAが、逆に見込み客を購買から遠ざけているとしたら、どうだろうか。

これはレアケースではないだろう。日々送られてくる数多のメールや、購入する気がないのに購入させようとし、挙句の果てに的はずれな「あなたにおすすめ」といったレコメンドにうんざりした気持ちになったという経験をしたことがない人が、どれほどいるだろうか。

さて、顧客の行動は予想でき、コントロールできるというのは、真実だろうか、それとも幻想だろうか?

見込み客や顧客に、ステップに応じて適切にアプローチすれば売上が上がるという常識において、ステップとは何で、適切なアプローチとは何なのだろうか。そもそもその常識は、本当に正しいのだろうか?

顧客はコントロールできない、というただひとつの真実

顧客はコントロールできない、というただひとつの真実:イメージ

そう、顧客を完全に理解することはできないし、予想することもコントロールすることも困難なことだ。

彼らは勝手に情報を集め、気が向いたタイミングで、自分の好む方法で、選ばされたものではなく選んだものを買うのだ。

しかも厄介なことに彼らは自分がなぜそれを選んだか、買ったかを論理的に説明できることができないケースも、めずらしいことではない。

だがそれもあたりまえのことだ。脳の情報処理の、実に95%が潜在意識において行われていると言われている。

そもそも、あなたの目に映っているこの世界そのものが、脳の作り上げた虚像なのだと――少なくとも、網膜の映像を脳が補正していることには間違いないのだ――言う人もいる。

つまり、人は自分の行動の理由すら、本当は分かっていないのだ。その表層のデータだけを追いかけているマーケターが、真実にたどり着けると考えるのは傲慢だ。

そして同じく、そのデータをもとに、誰かをコントロールできると考えるのも正しくない。人々の行動には、潜在意識(あるいは感情や直感)と呼ばれる、データや行動からは測りきれない部分が強く関係している。

近年の脳科学の発展はすばらしいが、それでもまだ、僕たちは脳の真実をすべて把握できている場合ではない。

つまり、人は人をまだ知り得ておらず、同じ理由でマーケターも顧客や見込み客を把握し、コントロールすることは本当の意味では(少なくとも今はまだ)不可能なのだ。

しかし、安心してほしい。だからマーケターがカスタマージャーニーを描いたり、顧客や見込み客にアプローチしようとするのは無駄だ、と言いたいのではない。

むしろその逆だ。その真実を知ったうえで、どのようにマーケティングに取り組むのか。その点を理解することが重要だと、僕は思う。

顧客はコントロールできない前提に立つと、世界はどうなるか

そう、顧客はコントロールできない存在だ。だからといってマーケティングの意味が薄れるわけでもなければ、これまで行われてきた施策に意味がないというわけでもない。

ただただ、前提を変え、真実に目を向け、そこからすべてを始めよう。

顧客はコントロールできない。何を買うか、いつ買うか、どのようなニーズやきっかけがあるのか。

すべては僕たちの知らない間に、見えない場所――そう、顧客の脳内だ――で、起こり、本人も認識しないうちに、何かを買うか、買わないかを意思決定している。

では、マーケターはどうすれば良いのだろう?

マーケターにできることは、その脳内でいつの間にか起こる決定に最大限干渉することだ。「選ばせる」「買わせる」のではなく、「選ばれるよう誘導する」「買われるように準備する」のだ。

顧客の行動はコントロールできない。だから、できるかぎり多くの接点を持ち、彼らが買おうと決める瞬間に――Googleはそれが「ZMOT」であると言っているが、この話はまた別の機会にしよう――彼らの側に、一番近くに寄り添うのだ。

どのように寄り添えば、顧客は選んでくれるのか、買うことを(彼らの潜在意識が)決めるのか。

そのことを考え、考え抜き、仮説を立て、検証し、改善しよう。顧客が示す現実こそが、どんな構想も、予想も、広告も、クリエイティブもすべてを凌駕し、彼らの脳内で起きている現象を、その意思決定を明らかにしてくれる。

「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてんだ!」

とある現場の刑事が、事件を解決するカギを握ったように、マーケターにとっての課題を解決するカギは、現場にあるのだ。

マーケティングは難しい。ビジネスやサービス、商材、ポジションやマーケットの状況など、無数のパラメーターが存在し、同じ状況はひとつとして存在しない。

だが、たったひとつ、真実といえるものが存在するとすればそれは、こういうことだろう。

顧客は、コントロールできない。彼ら自身も理解できていない潜在意識が、彼らを支配しているのだから。

カトウマモル

セキュリティエンジニア、社内SE、社内システム&マーケティング・広報担当マネージャー、コンテンツマーケティングのコンサルタントなどを経て、現在は奄美大島でリモート幽霊社員生活を満喫中。

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